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佐田清澄のすべて

I'm your bad dream

餅、それはビッグバン

 

12月31日、駆け込むようにしてドンキホーテにはいり餅を買った。

 

ひとりで過ごす年越しはこれが初めてだ。

 

おせちも伊勢海老もクルマエビも何のエビもないけれど、せめて餅だけは、餅だけは食べないと2015年が始まらない気がした。

 

 

1キロ298円の切り餅を二個、バター醤油を敷いたアルミホイルの上に並べる。230度に設定したオーブンで3分間。

 

こうやって一人で過ごすのもいいわねとコーヒーをすすりながら待つ。

 

部屋中にコーヒーの香り、バターの香り、それと明らかに人間にとってよくないと分かる有毒ガスのような臭いが充満した。

 

恐らく電子レンジの中に残っていた汚れと何かが化学反応を起こしたのだろう。急いで窓を開け外の空気を吸う。

 

おそるおそるレンジの中を覗いたが餅は6歳の女児の胸のごとく何の膨らみも見せておらずただただ静かに有毒なガスを放出していた。

 

これ以上餅ふくらましを続けると命が危ないかもしれないとは思ったが、命の危険よりも「とにかくこの空腹を何とかしたい」という結論に陥った。目に見えぬ毒よりも己の中にはっきりと感じる「腹が減った」という思いを優先したい。

 

うんともすんとも言わぬ餅を奮い起こさんと再び3分間オーブンにかける。口と鼻を手で覆って出来るだけ窓辺の方に身を置きひたすらその時を待った。

 

チンという軽快な音がして駆け寄ってみると餅はやはり9歳の時の私の胸のように何の膨らみも見せていなかった。レクトアングルの白い物体がふたつ、ただきちんと鎮座しているだけであった。

 

Oh, shit.

行儀の悪いアメリカ人のように悪態をつくと私は餅を箸でつまみ皿に移した。サランラップをかけ、今度は電子レンジで3分。これなら大丈夫だろう。さっきのように、昔、小学校裏の焼却炉で嗅いだようなイヤな匂いは全くしない。

 

3分経って出来上がったのはふっくら膨らんだ美味しそうな餅ではなく、大きな隕石が衝突した後に出来るクレーターだった。

 

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少し深い皿の表面にびっしりと破裂した餅がこびりついている。餅の表面はサランラップでコーティングされてつるつるしていた。端をつかんで持ち上げるとラップは剥がれたが、溶けて餅に有害物質がしみ込んでいるかもしれないと思うと食べる気になれなかった。

 

ラップをかけるのは避けたほうがいい。そう思って今度は新しい餅をシリコンスチーマーに入れてレンジにかけた。餅は21歳の女性の胸のようにきれいに膨らむでもなく、80歳の老婆の胸のように萎びるでもなく、今度もまた爆発した。ビッグバンだ。宇宙が爆発により始まったように、私の2015年もまた、爆発から始まった。ハッピーニューイヤー。