佐田清澄のすべて

I'm your bad dream

結局コメダがいちばん

東京駅方面に打ち合わせに行って、それがあまりに、あまりに早く終わって

これではわざわざ御社まで足を運ぶ意味は一体なんなんですか、電話で…いやメールでも3行で済ませられることをわたしはわざわざ早起きをしてだな、交通費と駐輪場代を使ってだな……

 

と憤りそうになったが、そこは落ち着いて『この辺りに仕事のできそうな喫茶店はあるかしらね』とか言って相手に『こんなに早く打ち合わせを終わらせてなんだか申し訳ないな』という風に気を遣わせないように、ここに来たのは仕事をするためでもあるよーというようなニュアンスを匂わせて社を出た。

 

それにしても打ち合わせっつうのは本当にひどい。ご相談したいことが‥‥みたいに重大な話があるんだ的ニュアンスを出すわりに言ってみたら大事なことはほぼ紙一枚に書いてあってそれを渡されて「後の諸々のことはメールでお伝えします」とかホントばかじゃねえの、と思う

 

よく意識高い系ブロガーが「打ち合わせは時間と金のムダ」とかいう毒にも薬にもならんエントリーを上げていてわたしは常日頃そういう奴らをおもっきし見下しておるのだが今回ばかりは、今度ばかりはその意見を認めざるを得んわな、

 

しようがないので神保町のあたりをぶらつくことにしたんだが、

まあ本好きをうたっている身分だけれどもこれといってそそるような古書も見つけられなく、とりあえず文明の利器を利用して一番近くのカレー屋に入ったらこれがまあ別に旨くねえのな、

 

ナニジンか分からんおっさん外国人がつくるカレーを、雇われの身分なのか雇いの身分なのか分からんくしゃおじさん的おじさんが運んでいて、まあ無機質なお盆と皿にペースト状のカレーと「ナンですが何か」みたいな顔したナンがツン、と乗っていて何の音楽も流れておらぬ店内に昼飯時のサラリーマンたちがぎゅうぎゅうに詰まっていて無情を感じたよ、無情を

 

サラリーマンの会話に耳を澄ませながら『こいつらは偉そうな顔をしてこんなくだらんことしか話してないのか、実にくだらん』と思いつつこれからは昼飯時にわざわざオフィス街の飯屋に入りそこで聞いたサラリーマンたちの会話を詳細に記すサイトをつくろうかしらなんて考えたけどそれもまたこのご時世なんらかのコンプライアンス的な違反に触れそうな気配があったのでナンもそこそこに会計をしたらくしゃおじさんが「…食べきれなかった?」とか寂しそうに言うのでいや後味わりーな、味も悪ければ後味もわりーなこの店は、と思いつつ「いやあその小食で」的言い訳をしてさっさと去った

 

カレーのせいか分からんが胸にささやかなむかつきを感じたのでとにかく気分を変えようと書泉グランデに入ったのだ、入って4秒でライトなノベルの萌え絵が目に飛び込んできてより一層ダークなグレイの気持ちで奥へ奥へと進むと「何もかも憂鬱な夜に」や山田悠介の本や田中慎弥酒井順子の文庫があったのでそれらをざっと掴んでレジに立ったよ、あー、アマゾンで買うほうが割安なんだけどね、といつも感じることを思いつつ、あー、本なんか買ってもどうせまた部屋に置きっぱなしになりいつの日か売られるんだけどね、と思いつつしかし会計を済ませ

 

神保町駅へ降りようとしたら目の前にいたサラリーマンふたりが「あ、さぼうるってこんなところにあったんだね」的なことを言っていた、確かにそこには神保町で一番有名である喫茶さぼうるがあった、

ここには1,2度入ったことがあるがその時はさほど神保町的なノスタルジーな雰囲気もフィロソフィーな雰囲気も感じられず騒がしい店内で慌ただしく珈琲をすすった記憶しかなかったのでわたしの今日の一日をこのさぼうるで良い一日の記憶に塗り替えよう、きっとこのさぼうるでイカした午後を送ればそれまでの嫌な思い出も全部チャラになるに違いない、と思い

 

やはり以前と同じく満席の店内を地下に案内されると隣の席のカップルがあろうことか男だけでなく女もタバコをふかしていて不快なことこの上ない、しかし今さら帰るとも言えず一杯だけ飲んですぐに帰ろうと山田悠介の本を開くとタバコアベックが「おお、さすが神保町だね」みたいな顔してこちらをじろじろ見てくるので大変腹が立った。

 

おまけに山田悠介、文章が下手過ぎて編集はどんな働きをしているのだろうと思いつつ奴らがタバコを吸うのをやめたので『はやく帰れ』的オーラをずっと出していたらやがてアベックは下界へと消え、代わりにわたしの苦手な、『へーベルハウス』とかのCMに出てきそうな『良いお父さん』みたいな顔した髭メガネのおっさん2人が入ってきてそいつらもまた『お、いるいる文学少女。さすが神保町』みたいなにやにや顔でこちらを見てきたのでわたしは一銭ももらってないにも関わらずこいつらのために「景観」の役割をやらされている気分になってきてなお一層憤った。山田悠介の文章がひどい。

 

そういえば先ほど書泉グランデで立ち読みをしていたときわたしはリュックサックを背負っていたのだけれども後ろを太めの成人男性がややぶつかり気味に通る気配があり、少しよけたのだがその後で「バサバサッ」と本が落ちる音がし、約8冊のライトノベル的萌え絵が男性とわたしのちょうど真ん中に落ちているのを見つけ、一瞬『拾おうかな』と思ったのだがいや、これは明確にはわたしが落としたものではないのだから別にわたしが拾う義務はないわな、と考えている間に同時に「この女がもしかしたら拾ってくれるかな」と思って立ち止まっていた男が諦めたように屈んでライトノベルを拾い始め、『けちけちせずに別に拾ってあげてもよかったのに』という悔恨の念が頭をもたげ、やがて自分の器の狭さに罪悪感を覚え、その場所から離れようと思ったがそれもまた無情かなと思いうろたえている間に書店員が来て、うんざりしたように本を直し始めたのでもう我々の心は地獄だった。

 

というような細かな心の動きを記録しておくのは君にとって大事なことだよ暇女氏、と昔お世話になった編集の人が言っていたのを思い出していま書いてみた

 

その人とは喧嘩してもう関係がなくなった

関係は死んだけどその人からもらった言葉は永遠に死なない、

この世には、普通に生きているだけで目に入ってくる情報が、肌を刺してくる情報があまりに多すぎる

しばしば、うまく息ができない