佐田清澄のすべて

I'm your bad dream

伊代はまだ 16だから

行きつけの焼き鳥屋に行った

 

行きつけだと思っているのは私だけで店の人は微妙な顔をしている

 

美味しい焼き鳥屋なのに店に入ったらお客が私以外に女がひとりだけだった

 

本物の常連っぽいその女の人は店員と親しげに話していて何となく肩身の狭い思いをしながら怒涛の注文を繰り出してそのあと「ねこあつめ」を開いた

 

しばらく愉快に大声で話していたのに急に静かになったので女性のほうをチラ見すると泣いていた

 

店の人が「どうしたんですか?」と聞くと

 

いま母からメールが来て、そんなにキツイなら四国に帰ってくれば?というような内容のメールだったから何となく泣いてしまったと言っていてもっと肩身の狭い思いをした。

 

有吉弘行のラジオを聴こうとイヤホンを探す

 

「兄嫁とお母さんは折り合いが悪いから、きっと娘のあたしにそばにいてほしいのよ、寂しいのよ」

 

「あたし、早いうちに上京しちゃったから、娘らしい孝行も何もしたことがないの、一緒にお買いモノに行ったりとか」

 

イヤホンはどこにやったのだろう、と別のポケットも探してみる

 

「でもこの歳で四国なんかに帰っていったいどうなんのよ、ねえ?」

 

イヤホンが見つかり急いでiPhoneに接続する。有吉のラジオをyoutubeで検索して音源まで辿り着くまでに時間がかかるのでとりあえずiPhoneに溜めていたレッドホットチリペッパーズの「Dani California」をつける

 

アッと言う間に耳にズン、ズンとベースの低い音が響いて安心した。Dani California以外は何も聞こえない。

 

有吉のラジオをつけた

人の笑い声を聞いて平常な心がにわかに戻ってきた

 

ここのつくねはとても美味しい

 

ときどきまだ女性と店員が喋っている声が音として聞こえてはきたが何と言っているのかは分からなかったしそれでよかった。

 

がちゃがちゃした2,30代の若い男性グループが3名ほどドカドカ店に入ってきた。入れ替わるように女性は店を出て行った。

 

そのすぐ後に、私も店を出た。

 

スーツ姿のサラリーマンやOLが横断歩道を少し足早に渡る様子を見て、そういえば金曜か、などと思った。